さまざまな分野で活躍するR60世代。
今回おじゃましたのは熊本の伝統工芸のひとつである「川尻刃物」の伝統を守る「林昭三刃物工房」。
御歳92歳にして現役の職人である林昭三さんにお話をうかがいました。
川尻刃物とは
煙突が目印の「林昭三刃物工房」。年季の入った、渋い建物です。
川尻刃物は、熊本県や熊本市が指定する伝統工芸のひとつ。熊本市南区川尻で作られている伝統的な刃物です。
地金(極軟鉄)に良質な鋼を挟み込んで手打ちで鍛えます。
川尻は室町時代から続く鍛冶屋町で、600年の伝統があります。
戦前には50軒ほどあったと言われる工房も徐々に姿を消し、現在は林昭三刃物工房を含めて2軒のみになってしまいました。
この道70年!林昭三さんを訪ねる
工房の名前にあるように、あるじは林昭三さん。ご自身の工房を開いて何と70年になります。
昭和3年生まれで、御歳92才です。耳が遠くてと笑っておられましたが、背筋もしゃんとされデニムをかっこよく着こなす姿は、年齢を感じさせません。
今でも1日3本ほど包丁を作るという林さん。作業風景を見学させていただきました。
燃えさかる炎に、真っ赤に焼けた鉄。離れたところから見学していても汗がしたたり落ちる暑さです。
石炭で熱して最後に松炭で焼き入れするため、しっかり炭素を含んで硬くなるのだそう。重油を使って作る量産品との違いは大きいといいます。
叩いた包丁は藁の灰に入れて冷まします。保温性のある藁の灰に入れてゆっくりと温度を下げていくことで、刃こぼれしにくい丈夫な包丁になります。
気になることを聞いてみました
作業の手を止め、気さくにお話ししてくださる林さん。不躾な質問にも、ユーモアを交えつつも真摯に答えてくださいました。
—この道70年とは、本当に頭の下がる思いです。
林さん 自分はこれしかないと思ってやってきた。今はもう2軒だけになってしまったし、若い人にはなかなか勧められないけれどね。
—以前は川尻刃物の工房も多く賑やかだったと聞きましたが。
林さん 戦後はとにかく金属が不足していた時代だから、農家さんからの注文がとても多かった。鎌・鋤・鍬など、作るそばからどんどん売れた。
—川尻刃物は伝統工芸。残していくのも様々なご苦労があるかと思いますが、どのようにお考えでしょうか。
林さん 70年ずっと同じことをやってきた。昔は二人で作業していたものを機械を使って一人で作業する箇所もあるが、基本的には地道な手作り。樺島知事から賞状ももらったし、ちゃんとしなくてはと思っているよ。
自分の包丁は15年から20年ほど使える。良いものを作れば作るほど買い替えのサイクルが長くなるから、あんまり儲からないね(笑)。
—良い包丁を持つと、うまく手入れができるか心配です。
林さん 持ってきてくれれば、包丁とぎは1本700円でやっている。年に1度くらいで充分。サビないようにするには、洗った後お湯にくぐらせて水気を拭き取っておくこと。乾燥機にかけるよりも効果的だよ。
匠の技、購入したい
林さんの包丁は、小さいものでは5,000円ほどから1万円超のものまであります。
スーパーなどにある量産品に比べるとやや高価にも感じますが、1本購入すれば15年ほど使えます。70年という熟練の職人技の川尻刃物が手に入ると考えれば、コストパフォーマンスの良い買い物かもしれません。
日光にあてるといたむからと、棚や引き出しに大切にしまってある包丁たち。
どれも丹精込めてひとつひとつ手打ちされたものばかりです。林さんの包丁を使って、料理を作ってみたい。そんな気持ちになりました。
実物を手にとって、自分の手にしっくりなじむものを選ぶのも楽しそうです。
野菜用、刺身用など用途もさまざまなので、使いみちや欲しいものを相談してみてください。
取材を終えて
92才にして現役の職人である林昭三さんは「活躍するR60」のトップランナーのような存在。
飄々としつつも、製法を守って真摯に包丁を向き合う姿は本当にかっこよく、素敵でした。
改めて、ゆっくりと包丁を買いに行こうと思います!
【林昭三刃物工房】
所在地:熊本市南区川尻1丁目3−35
定休日:月曜日
営業時間:10:00〜17:00頃